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「おくりびと」

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2008年に公開され日本アカデミー賞優秀作品賞を取った「おくりびと」という映画をご存知の方も多いと思います。主演は本木雅弘さんで、おくりびと(納棺師)の仕事を通して、様々な「死」に立ち会い、それぞれの人生の終焉をいかにサポートするか…が描かれています。私は公開とともにすぐさま映画館に観に行きました。

この映画を見たすぐ後、平成19年9月30日に、長期入院のため同月16日に退所されていたTさん(女性)がお亡くなりになりました。在籍中の方であれば、色々と施設からしてあげられることも多いのですが、直前ですが退所されていたこともありましたので、個人でのお参りとなりました。

Tさんは、お若かったのですが、娘さんのご家族との同居には、色々と気を遣わせてしまうということで、老人ホームの入居を考え、娘さんと見学に来られました。老人ホーム自体が初めてで、娘さんも同居を続けたがっていましたので、社会勉強のつもりでと、熊本市内の同様の施設の中から、私がおすすめの施設を5つほどお教えし、「色々な施設がありますから沢山見て来られてから良い所に入った方がよかですよ!」と、早急な施設入所に踏み切らないよう促しました。ご本人も納得され受付だけ行い、お帰り頂きました。

それから半月後くらいだったでしょうか。Tさんが娘さんと再度お見えになり、「紹介してもらった施設を全部見てきました」と全ての施設のパンフレットを差し出し、「全部見てきましたが入居は暁荘にしたいので、申し込み手続きをお願いします」とのこと。Tさん曰く、「他の施設は事務的で、さらに入居してくれとがめつい感じを受けました。中村さんは暁荘の入居手続きを進めることなく、また親切にも他を紹介してくれ、色々勉強になりました。だから暁荘に入ります」でした。遠回りをされましたが、平成14年9月に入居。ご家族もとても面会が多く協力的な方々で、何よりご本人がお元気で、理想的な軽費老人ホームの入居者でした。

娘さんが名残惜しいが退所でと申し出られてから半月で、ご逝去の一報が病院から私にあり、出先だったのでそのままご遺体が移送される葬儀場へ向かいました。移送されたばかりのTさんと娘さんご家族、それに納棺師の男性がお一人おられる控室に伺い、今まさに納棺の準備をされるところでした。直前に「おくりびと」を観ていた私でしたので、思わず「納棺のお手伝いをさせてください」と言ってしまい、納棺師の方が「ご家族がよろしければ…」と、娘さんから「是非お願いします」と言っていただき、納棺師の方の指示のもと最後までお手伝いし、ご遺体を納棺しました。

 

その時の納棺師の方の言葉がこんな感じだったと記憶しています。

「誰もが逃れることのできない「死」を直視し、いかに人生のエンディングをより良く意味のある場にするかが納棺師の使命なんです。今日のTさんへのあなたのサポートは、Tさんとご家族にとって、とても意味深いものとなったと思いますよ。いい体験をされましたね」

と、おっしゃっていただき、娘さんも泣きながら感謝の言葉を、私と暁荘に下さいました。

 

この体験は、私たちがかかわる入居者の皆様との、最初から最後(最期)までのお付き合いが、その都度ちゃんとできているかということを改めて考え直すきっかけとなった出来事でした。

暁荘では、入居されている方々の「死」に直面する機会が少ないのですが、だからこそ、最期の時に立ち会えたならば故人に対して、「暁荘でお会いできて良かったです」と感謝の気持ちが最高の手向けとなるよう、手を合わせて祈るようになりました。

たまたまですが、偶然にも暁荘でご縁ができた方々との大切なお付き合いの時間を、これからも大事にしていきたいと思います。

直近でお亡くなりになられた方がおられましたので、このブログ投稿となりました。

 

暁荘・施設長・中村 猛🍀