白川の里の実践ブログblog

“恩おくり”

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 先日、令和2年度の白川の里 物故者盆会法要を行いました。本来であればお亡くなりになったご利用者のご遺族をお招きして法要を執り行いますが、今年は感染予防のため一部職員だけで実施することとしました。

 昨年度は16名のご入居者との悲しい別れがあり、施設創設から過去帳にお名前が記入された方は、今年で875名となりました。先ずはお亡くなりになった方々のご冥福を心からお祈り申し上げます。

 さて、これは毎年法要の際にお話していることですが、仏教の教えの中に人間がこの世に生を受けたからには誰もが避けては通ることの出来ない苦しみ、いわゆる「四苦」という考え方があります。

 具体的には『生・老・病・死』の四つを指しています。これは私たちが俗に言う四苦八苦のことです。そこでよく考えてみれば、私たちの仕事はまさに事業所内保育所の運営から高齢者の看取りケアにいたるまで、四つの苦しみ全てに関わる仕事をしていといっても過言ではありません。従って仕事における専門的な知識や技術がとても重要であることは言うまでもありませんが、それ以上に大切なのはご利用者お一人おひとりの“いのちに寄り添う”ということを日々常に行動の根幹に据えてお世話をさせて頂く事です。

 又、前述した八苦の一つである“愛別離苦”、これは愛する人と別れる苦しみもまた誰もが避けて通れない人間の宿命の一つであるという考えです。そのこと自体は誰しも理屈ではわかっていても、実際にその場面に直面すると心情的にはそう簡単に割り切きるものではありません。ご利用者と慣れ親しんだ私たちでさえそう思うのですから、肉親を亡くされたご遺族がどれほどの悲しみと落胆だったことか、察するにあまりあるものがあります。残念ながら今年は法要の場に参列していただくことはできませんでしたが、私たちはこれから先もご遺族の気持ちに対しても寄り添うことを決して忘れてはならないと考えます。

 私たちが毎年法要を営む中で、その度に改めて気づかされることは“人は最期のその時まで周りの人々に影響を与えてくださり、その方との想い出の中からお亡くなりになった後も力を与えてくださる存在となる”ということです。そして過去の様々な経験から、今を生きている 生かされている私たちが、お亡くなりになった方々から受けた“ご恩”を返すことはできませんが、今後のお世話に活かしていくことで、恩を送り続けていくことこそが、恩返しならぬ“恩おくり”に繋がると信じてやみません。

 今現在私たちの暮らす熊本県は、コロナ禍に加えて豪雨災害にあわれた方々においてはまさに被災からの復興と言う本当に大変な状況にあります。この復興のキーワードに“つながる”という言葉が自然と浮かんでくるのはきっと私だけではないと思います。人間はどのように不遇がきっかけであっても、気づきを与えられる“わたし”と考えれば、「報恩」という言葉も今更ながら考えさせられるところです。これからも売ったり着せたりする恩ではなく、お互いさまの自然な気持ちで恩を“おくり続ける”ことができる職場でありたいと思います。
施設長 満田