白川の里の実践ブログblog

人の優しさとは...

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私はこれまで高齢者福祉に携わってきた中で、多くのご利用者とそのご家族に出会い、また同時に多くの辛い別れも経験してきました。そうした体験を通して、施設における介護や看取りを行う上で、とても大切なことを利用者のご家族の体験を通して教えられたことがあります。

 あれは今から3年前の平成26年10月、約2年間施設で過ごされたNさまがお亡くなりになった後に、その娘さんが精算手続きにお見えになった時の出来事です。

 家族を亡くして1週間といえば、まだ悲しみも癒えない状態だと思うのですが、娘さんは笑みを浮かべ、とてもさっぱりした表情をしていらっしゃいました。私はその様子になんとなく違和感を覚えながら、「お母様のご生前は本当にお世話になりました」とご挨拶すると、娘さんはこんなことを話されました。

 「実は、母が亡くなる2日前の朝にとても嬉しいことがあったんです。私たちが宿泊していた部屋に、40代くらいの女性スタッフの方が、自宅からわざわざ陶器の素敵なコーヒーカップを持ってきてくださって、とてもおいしいコーヒーを入れてくださったんです。そのさりげないもてなしで、私たち家族はこれまでの看病疲れが吹き飛んだ気がしました」

 「ああ、そうでしたか... それは知りませんでした・・・」と私が言うと、娘さまは続けて、

 「私たちは長年にわたって母の介護をしてきたんですが、人間は自分が辛い状況になると、つい意地悪になるんですよね。介護を始めて間もない頃、私は心身ともに疲れ果て、母に優しくなれない自分に随分悩みました。そんな時にたまたま新聞のコラムで、 “人の優しさとは、優しい人が優しいのではなく、周りが優しい状況になれば、人間誰もが優しくなれる” そう書いてあったんです。私たちは母が白川の里でお世話になったことで、母に対して優しく接することのできる本来の自分を取り戻せた気がしました。母も最期まで職員の皆さんから1人の人間として優しく接してもらい、本当に嬉しかったと思いますし、私自身も随分と癒されました。ですから母の最期に関して一切の悔いはありません!」

ときっぱりおっしゃったんです。

 私はその言葉を聞いて “目からうろこが落ちる” そんな気がしました。私たちはそれまでご利用者のことだけを考えてお世話をしてきました。しかしご本人が最期までその人らしい人生を全うするためには、実はご本人と同じくらい、一緒にお世話をするご家族をサポートし、その気持ちにしっかりと寄り添ってケアすることが大切なんだということを深く思い知らされました。

 これから私たちが “ひとりのいのちにみんなでよりそう” このことを日々のケアで具現化していく上で、あの日のご家族の言葉はとても大切な教訓となっています。

 

特別養護老人ホーム 白川の里

                         施設長 満田 賢一朗