若草学園の実践ブログblog

発達支援に大切なこと~療育キャンプを振り返って~

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皆さんは、子どもの何気ない一言に、感動や成長を感じていますか?

おひさまでは、毎年、小学校3年生を対象に、一泊二日の療育キャンプを行っています。

このキャンプでは、お友達と衣食住を通して、ソーシャルスキルの獲得度を見ていくのですが、今回のキャンプの中で起きた多くの成長を感じるエピソードの中から、ある一人の子どもさんの何気ない一言に焦点を当てたいと思います。

 

 そのエピソードとは・・・、AくんとBくんのキャンプ2日目の朝の虫取りの一場面のことです。

 

 普段は療育のクラスも通っている学校も違う二人。Aくんは、正義感が強くリーダ0気質で優しさいっぱいだけど、自分の気持ちを言語化することが苦手で、時には手をあげてしまうことがあります。一方、Bくんは、興味関心事があると、その探求心から周りが見えなくなってしまい、必要な時にみんなと一緒に行動(集合時間に間に合わない、次の場所への移動など)することができなくて、先生やお友達からついつい注意を受けてしまいます。

 でも、Bくんは彼なりの考えがあり、理由を尋ねると『自分はこうしたかった』と自分の考えを言語化する力を持っています。

 

 そんな2人が同じグループで同じ部屋で行動を共にすると、どんな化学反応が起こるのか?とってもワクワクしていました(絶対に衝突するだろうな…と思いつつ…)

 

 一般的に、発達に課題のある子どもの支援は、引き算方式と言われています。引き算方式とは、ある刺激によって、本人が次の行動に移れなかったり、今知っていた方がその後に本人が苦労しないだろうと思われる情報を収集できなかったりする場合に、その刺激となっている情報を減らしたり、整理したりすることです。

 

 今回の場合、Bくんにとっては、特に『生き物』が刺激であり、Aくんにとっては、急に一人で行動し始めるBくんが刺激になると予想していました。

 

 案の定、Bくんはトンボを見つけると捕まえるのに夢中になり、集合時間に間に合わなかったり、夕食の準備中にキャンプ場内の地図を持って、突然部屋から出て行ったりしていました。

 そんなBくんの行動を見ていたAくんは、Bくんに対する口調が徐々に荒く、強くなってきます。Bくんは『なんで、そんなこと言うの?』とAくんの感情を上手くくみとることが出来ません。それに対してAくんの怒りは爆発‼『お前ね…』のあとに次の言葉が出てこず……。直後、Bくんにけりを一発。(足をひっかけるような感じの出し方で、Aくんなりに力を加減していたのがわかりましたが…)

 勿論、Bくんは『せんせ~Aくんが蹴ってきました。痛いです。』と言います。それに対してAくんは『別に痛くないし。強く蹴ってないし。』と反論します。

 本来であれば、この時点ですぐに大人が間にはいって、それぞれの言い分を聞き、両者に対して正解的な解決しなければ、私はそうしませんでした。だって、今日は療育キャンプ。子どもたちが、どれだけソーシャルスキルが身についているかを総合的に見ていく日です。

 彼たちがお互いに自分の意見をぶつけ合い、正解的な解決をするのではなく、お互いが相手の思い(彼たちの特性からは、目に見えなくてとってもわかりにくいものですが…)を知り、納得感を得られるかが大切であると考えました。彼たちの行為が人格否定をするという結果にならないよう、選択肢の情報は伝えながら見守りました。

 ここから二人の議論が始まります。。。。。。

 

Bくん:どうして蹴るの?

Aくん:お前がウロウロするからだろ!

Bくん:ウロウロしてないよ。あっちにセミの抜け殻があったから。

Aくん:はぁ? お前、バカじゃないの?勝手に行ったらいかんだろう!

Bくん:バカじゃありませんよ。だってセミの抜け殻があったから…

Aくん:いま、行くなってことだよ。先生とせなんだろうが!(準備や片付けのこと)

Bくん:ぼく、もう、全部おわったよ!

Aくん:マジでっ? はやっ! ちょっと俺もするけん、待ってて。(準備など…)

Bくん:いいよぉ~

 

 みなさん、おわかりですか? すごくゆる~い納得感ですよね。最初の『蹴られた』ということから論点がはずれ、なぜか、最後は『一緒に外に出て抜け殻を取りにいく』ということに変わっています。

 実は、Aくんはまだ準備や片付けが終わっていなくて、他のお友達と遊んでいたのです。Aくんが遊んでいる間、Bくんは、部屋に入る前に見つけたセミの抜け殻を取りたくて、早めに準備や片付けを終わらせていたのです。

 それに気づいたAくんは、自分にも落ち度があると感じたのでしょう。マジでっ?はやっ!ととっさにこたえます。

大人の場合…きっと『そうだったんだね。片付けや準備終わってたんだね。ぼく気付かなった。蹴ったりしてごめんね。ぼくも片付けするからBくん待ってて』という答えを導くような指導をするのではないでしょうか?

 でも、Bくんは「いいよぉ~」と返事をして、その後はAくんが終わるのを待っていました。私はこういった子ども同士のやり取りの見守りが非常に大切だと感じています。

なぜなら、Aくんは、先ほどの一連のやり取りが終わった直後にBくんの隣にいき「蹴ってごめんね」と一言。Bくんも何かをしながらでしたが「うん」と答えていました。

 

注意点としては、こういった見守りをする場合、職員は必ずその子の発達特性やこれまでの育ってきた環境などの背景を理解し、直近の集団場面における情緒の動きや行動のコントロールの状況を把握しておかなければなりません。大人が子どもに答えを教えるのではなく、子ども自身が考え、間違ってもいいので自分の意志で選択できるように仕掛けていくことがプロフェッショナルな仕事であると考えています。

 

 その後もAくんとBくんは、場面が変わるごとに些細なことでもぶつかりあっていましたが、大きなトラブルに発展することもなく1日目が終了しました。

 

そして、2日目の朝、部屋のみんなでキャンプ場内の散策に出かけたときに、Aくんから感動の一言が飛び出しました。

 Bくんは、キャンプ場の地図を持って、まだ通っていないコースを歩いていきます。途中、セミの抜け殻を発見。その発見場所までみんなを案内し、自分は他の場所を探し始めます。しばらくするとBくんとAくんとの距離は100m以上離れてしまい、Bくんはどんどん先に行きます。

 昨日と同じかなぁ・・・やりあっちゃうかなぁ・・・と思っていた時、Aくんが大声で「〇〇~!お前、一人で先に行くなよ! お前がおらんと場所がわからんだろ~! 一緒に行くばい」と声を掛けます。Bくんもその声に対して「ごめん、ごめん、僕が案内するから待ってて~」と言い、すぐにみんなのところに戻ってきます。その後は部屋に戻るまで、Bくんはみんなから離れることなく、ちょっと離れてもみんなが来るまでちゃんと待つこともできていました。

 AくんもBくんもお互いのこと(性格やその人の良いところなど)を知ったからこと出てきた言葉じゃないかと感じた瞬間でした。

 昨日までだったら、Aくんは「お前、勝手に一人で行くなよ!」の一言で終わり、きっと「お前がおらんと場所がわからんだろ~!一緒に行くばい」のフレーズはなかったと思います。

 このうしろのフレーズが出たからこそ、Bくんの「ごめん、ごめん、僕が案内するから待ってて~」のフレーズが出たんだと思います。私はこのたった一言。何気ない一言に大きな感動と成長を感じ、今回のキャンプで忘れられない、インパクトのある一場面となりました!

 

 これからの日本を作っていく、Aくん、Bくん。私たちは、単に専門的な技術を駆使した支援をおこなうだけではなく、その先専門性をいかして、子どもたちが持っているその感性を育て、気配りのできる大人になっていくような支援をしていくことが重要な使命ではないかと考えています。

 

児童発達支援センターおひさま  河野 光輝