おひさまの子どもたちに出会って約半年。今まで主に成人の身体疾患に向き合ってきた
私は、子どもたちに様々なことを教わる毎日です。
人には、五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)の他にも、痛覚、温冷覚、平衡感覚、
固有感覚など多くの感覚が備わっています。人は感覚によって、坂道でもまっすぐ立った
り、目を閉じたまま左右の指先を合わせたりできるのです。「私が・ここに・在る」とい
う情報を基に、私たちは体を動かしています。
運動の上達には経験が必要です。車の運転で覚えがないでしょうか。車体感覚が未熟な
うちは車を壁にぶつけたり、駐車で何回も切り返したり。何度も運転するうちに次第に上
達し、今は話しながら運転するのも簡単なはずです。では、基礎となる感覚に敏感さや鈍
感さがあったら?急ブレーキ急アクセル、蛇行運転、衝突や転落、スピン…何だか子ども
たちの動きに似ていませんか?また、ハンドルは体を起こして操作しますが、平衡感覚と
固有感覚に躓きがあると、多くの人が苦も無くできる「まっすぐ座ること」自体が難しく
なります。
私が以前お会いした男性は、脳梗塞の後遺症で半身に重度の運動麻痺と感覚麻痺があり
ました。麻痺側では自分の体、床やベッドの存在さえ不確かです。男性はそれらを確認す
るために常に下を向き、体を感覚がある側に大きく傾けて座っていました。「麻痺した方
にどんどん落ちていく気がするんだ。底がないところに落ちていくようで…怖いんだ」と
小さく教えてくれました。
子どもたちが自身の感覚を表現するなら、どんな言葉になるでしょう。雲の上にいるよ
うで落ち着かない?じっとしてると手や足が消えちゃうみたい?強く蹴ってないと地面が
分からない?黒板と手元を何回も見ると目が回る?…子どもたちの困り感が目に見えない
感覚から生じるものなら、他の人と同じように、と求めるのは難しいことです。私たちが
「平均的」という意味で使っている「普通」は、子どもたちにとっては未知の領域です。
おもちクラスの個別活動の一つ・運動では、ペアやチームで行うプログラムを多く取り
入れています。子ども同士で手を繋ぐと、動きの激しい子が慎重な子のペースに合わせた
り、お互いをよく見て距離やタイミングを図ったりと、「ちょうどよい感覚」を手探りし
ているのがよく分かります。お友達の表情を見て自分の行動を変えるという、人として大
切な成長の瞬間でもあります。
前述の男性は、全身鏡に写る自分の姿勢を直すことで笑顔が増えていきました。子ども
たちの鏡はお友達です。自分と違うところを発見して、少しずつ歩み寄ってゆく。怖さか
ら踏み出すその一歩を、皆さんとともに喜びたいと思っています。
児童発達支援センターおひさま 理学療法士 髙木