私はある時、「子どもが育つ魔法の言葉」(ドロシー・ロー・ノルト著 PHP文庫)という本のタイトルが目に留まり、子どもを育てる魔法とはいったい何だろう、と思い読んでみることにしました。
この本のはじめには、著者が伝えたい、とてもシンプルなこととして、次のようなことが書かれています。
「子どもは常に、親から学んでいるということです。子どもは、いつも親の姿を見ています。ああしなさい、こうしなさいという親の躾の言葉よりも、親のありのままの姿のほうを、子どもはよく覚えています。親は、子どもにとって、人生で最初に出会う、最も影響力のある「手本」なのです。」
確かに、子どもたちは親だけでなく、私を含め大人たちのことをよく見ています。最近では、それに加えてテレビやインターネットといったメディアの影響も大きなものがありますが…。やはり身近に居る親(大人)の影響は大きなものがあると思います。このことは、日々子どもたちと接しながらその様子を見ているとよくわかります。それ故、私たち大人は常に子どもたちに見られているという意識をもち、手本となるようにしなくてはならなりません。一方では、手本はなくても子どもたちに過ごしやすい環境を整えて置けば、何も問題は起きないという考え方もありますが、それでは子どもたちは何も考えずに過ごすことになってしまいます。厳しい現実社会はそんなに甘いものではありません。愛情をもって見守りながら様々な体験(失敗を含めて)を積んでいくことで、社会に出ていく本当の力がついていくのではないでしょうか。
本の冒頭には「子は親の鏡」として、19の短い言葉が書いてあり、それを見ただけでもよくわかります。家庭だけでなく、療育においても子どもたちと接する際に大切なものだといえます。
「けなされて育つと、子どもは、人をけなすようになる…。<中略>…和気あいあいとした家庭で育てば、子どもは、この世はいいところだと思えるようになる」
これらの言葉は、シンプルで当たり前のことだと思うことが書かれていますが、そのひとつひとつ見ていくと実際にどれだけのことが自分にはできているのだろうかと考えさせられるものばかりです。
また、本には「子は親の鏡」ということが書かれています。これについては、“子どもは親(おとな)の鏡”ということで、子どもは親(おとな)を映す鏡(ありのままを映すもの)だといえます。逆に、“親(おとな)は子の鑑”つまり、親(おとな)は子どもにとって鑑(模範)となる存在だといえます。どちらも“かがみ”ですが、いずれも親(おとな)の在り方が大切だといえます。
この本を読んでいて、もう一つ思うことがありました。子どもにとって親だけでなくもっと身近に手本となるべくなるものが他にあるのではないだろうか。そう思った時に頭に浮かんだのが、今、子どもたちの間で爆発的な人気の漫画漫画「鬼滅の刃」です。(『鬼滅の刃』は、吾峠呼世晴による日本の漫画。略称は「鬼滅」。『週刊少年ジャンプ』にて2016年11号から2020年24号まで連載された。 大正時代を舞台に主人公が鬼と化した妹を人間に戻す方法を探すために戦う姿を描く和風剣戟奇譚。シリーズ累計発行部数は最終巻の単行本第23巻の発売をもって1億2000万部を突破している。 ウィキペディアより)
この漫画がどうしてこんなに人気があるのだろうと思いましたが、それには訳があるようです。時代設定が大正時代ということで、子どもたちには馴染まないかなと思われるものなのに、登場人物(キャラクター)や物語の内容、その中のセリフにとても興味津々で、魅力があるようなので調べてみました。
そこで、独断ではありますが、ドロシー先生の言葉と鬼滅の刃に登場する人物の言葉を並べてみることにしました。(昨年の12月4日に、新聞各社の朝刊に、主要キャラクター15人の名言が掲載、そのセリフを含めて)中には無理やり?と思われるものもありますが、どうぞご容赦ください。
※上段〇はドロシー先生の言葉で、親(大人)に向けたものとして、
下段◐は鬼滅の刃でのセリフで、子どもたちに向けた言葉として捉えてください。
〇「けなされて育つと、子どもは、人をけなすようになる」
~ただ叱るのではなく、その原因を一緒に考え、失敗を活かせる言い方をする。
◐「真っ直ぐに前を向け‼ 己を鼓舞しろ‼ 頑張れ炭治郎頑張れ‼ 俺は今までよくやってきた‼ 俺はできる奴だ‼ そして今日も‼ これからも‼ 折れていても‼ 俺が挫けることは絶対に無い‼」<竈門炭治郎(かまどたんじろう)>
~苦境に立たされた炭治郎が自分を鼓舞するために言った言葉。
〇「とげとげした家庭で育つと、子どもは、乱暴になる」
~怒りの感情で言うと心を不安定にしてしまう。別の言葉で表現すると受け取り方も変わります。
◐「貴様の下らぬ観念を 至上のものとして 他人に強要するな」<悲鳴嶼行冥(ひめじまぎょうめい)>
~柱(鬼殺隊の上位)である行冥が、元鬼殺隊の鬼と戦っているとき鬼になるよう説得されるが、感情的にならず冷静に対応し、人であることへの誇りを語る。
〇「不安な気持ちで育てると、子どもも不安になる」
~不安な気持を受け止め、どう克服するのかを教える。
◐「失っても失っても 生きていくしかないです どんなに打ちのめされようと」<竈門炭治郎>
~悲しくつらい思いをしている青年に、炭治郎が立ち直るには、それを抱えながらも前に進もうと励ます。
〇「“かわいそうな子だ”と言って育てると、子どもは、みじめな気持ちになる」
~同情ではなく、共感する。
◐「大切なのは”今”なんだよ」<竈門禰豆子(かまどねずこ)>(朝日新聞に掲載)
~「幸せかどうかは自分で決める 大切なのは“今”なんだよ 前を向こう 一緒に頑張ろうよ 戦おう」の一部で、幸せのものさしは人それぞれ、もっと自分を大切にしてほしいという。
〇「子どもを馬鹿にすると、引っ込みじあんな子になる」
~相手の立場で考えることができると思いやりがもてる。
◐「恥じるな 生きてる奴が勝ちなんだ」<宇随天元(うずいてんげん)>(毎日新聞に掲載)
~生きているだけでも幸せなんだ、恥じることはないという励ましの言葉です。
〇「親が他人を羨(うらや)んでばかりいると、子どもも人を羨むようになる」
~自分の欠点を見ず、よいところ見つける。
◐「あなたは強い鬼(上弦の鬼)と戦って生き残った これは凄い経験よ 実際に体感して得たものはこれ以上ないほど価値がある 五年分十年分の修業に匹敵する 今の炭治郎君は前よりももっとずっと強くなってる」<甘露寺蜜璃(かんろじみつり)>
~強い柱と比べると劣っているように見えるが、確実に成長していることを伝え自信を持たせようとしている。
〇「叱りつけてばかりいると、子どもは「自分は悪い子なんだ」と思ってしまう」
~叱る前にどうしてそういうのかを知り、励ます。
◐「真っ直ぐに前を向け‼ 己を鼓舞しろ‼ 頑張れ炭治郎頑張れ‼ 俺は今までよくやってきた‼ 俺はできる奴だ‼ そして今日も‼ これからも‼ 折れていても‼ 俺が挫けることは絶対に無い‼」<竈門炭治郎>
~自分自身に問いかけ、できると奮い立たせている。
〇「励ましてあげれば、子どもは、自信を持つようになる」
~頭で考えず心で考えること、親はいつも味方であること。
◐「俺は信じる 君たちを信じる」<煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅうろう)>(日本経済新聞に掲載)
~炭治郎と善逸、伊之助の3人に、もっと成長して、鬼殺隊を支える柱となるよう遺した最期の言葉です。
〇「広い心で接すれば、キレる子にはならない」
~我慢強く、今できることは何かを考える。それが分かれば精一杯努力できる。
◐『できるできないじゃない やらなきゃならないことがある』<胡蝶しのぶ(こちょうしのぶ)>
~自分がやるべきことがわかれば、その意味を理解できれば、上弦の鬼にも立ち向かえるほど強くなれる。
◐「僕は幸せになる為に生まれてきたんだ」<時透無一郎(ときとうむいちろう)>(朝日新聞に掲載)
~強い鬼(上弦の鬼「黒死牟」:こくしぼう)との闘いに勝ったもののその傷により命を落としてしまいます。その際に、無一郎の魂が兄の有一郎と会うシーンです。誰しも不幸に生まれたいとは思っていません。幸せだと言わせる兄弟愛がすばらしいものですね。
〇「誉(ほ)めてあげれば、子どもは、明るい子に育つ」
~よいところを見つけてほめると、自分を好きになれる。
◐「いいんだ善逸 お前はそれでいい 一つできれば万々歳だ 一つのことしかできないならそれを極め抜け 極限の極限まで磨け」<桑島慈悟郎(くわじまじごろう)>
~不器用で技も一つしか使えない善逸に、1つだけでも極めれば素晴らしいのだと自信を持たせるために師匠が掛けた言葉
〇「愛してあげれば、子どもは、人を愛することを学ぶ」
~無条件の愛(認める、信じる、思いやる)は、自分を信じることができ、人を愛することができる。
◐「また人間に生まれ変わったら 私のことお嫁さんにしてくれる?」<甘露寺蜜璃>(日本産経新聞に掲載)
~天真爛漫な蜜璃が、宿敵のラスボスの鬼(無惨)との決着の際に、伊黒に告白した言葉。こんな熱い思いを素直に語れるといいですね。
〇「認めてあげれば、子どもは、自分が好きになる」
~良いところを見つけてほめることで、自尊心や自己肯定感が高まる。
◐「俺は 俺が一番自分のこと好きじゃない ちゃんとやらなきゃっていつも思うのに 怯えるし 逃げるし 泣きますし」
「変わりたい ちゃんとした人間になりたい」といいつつも、その気持ちを克服するために
「禰豆子ちゃんは俺が守る」<我妻善逸(あがつまぜんいつ)>
~不安だけれども大好きな禰豆子のためならがんばれる。自分で自分を変えていける。愛ですね。
〇「見つめてあげれば、子どもは、頑張り屋になる」
~よく見ていると何がしたいのかが分かり、それを一緒に考えることで夢(目標)がもてる。
◐「君には未来がある 十年後二十年後の自分のためにも今頑張らないと 今できないこともいつかできるようになるから」<竈門炭治郎>
~自分にはできないと落ち込んでいる仲間(刀匠見習いの小鉄)に、今はできないかもしれないが、ここで頑張れば出来るかもしれないという希望を抱かせる言葉、希望(肯定)は次への意欲へとつながっていくものだと思います。
〇「分かち合うことを教えれば、子どもは、思いやりを学ぶ」
~お互いを認め合うことで、相手を尊重し、思いやりが生まれる。
◐「自分にできなくても 必ず他の誰かが 引き継いでくれる 次に繋ぐための努力をしなきゃならない」<竈門炭治郎>
~様々な問題にぶち当たった時に、あきらめないといけないこともあるが、それを受け継ぐ誰かがいると信じ、努力しようというもの。
〇「親が正直であれば、子どもは、正直であることの大切さを知る」
~正直とは誠実であること。
◐「人は心が原動力だから 心はどこまでも強くなれる!!」<竈門炭治郎>(読売新聞に掲載)
~自分の心に正直になることでどこまでも強くなれるというもの。
〇「子どもに公平であれば、子どもは、正義感のある子に育つ」
~人を尊重することで、誰とでも公平に接することができる。
◐「俺は自分が信じたいと思う人をいつも信じた」<我妻善逸>(朝日新聞に掲載)
~自分の心に正直に、信じるものがあるということは素晴らしいことです。
〇「誉めてあげれば、子どもは、明るい子に育つ」
~よいところを見つけてほめると、自分を好きになる。
◐「きっと君なら できますから」<胡蝶しのぶ(こちょうしのぶ)>(毎日新聞に掲載)
~柱の中で、唯一鬼の頸を切らないしのぶが、炭治郎ならできると信じ、鬼と仲良くするという自分の夢を語る。
〇やさしく、思いやりを持って育てれば、子どもは、やさしい子に育つ
~ありのままを受け入れられると、やさしく思いやりが生まれる。
◐「一番弱い人が 一番可能性を持ってるんだよ」<竈門炭治郎>
~鬼との戦いで、呼吸(力を強くできる呼吸法)の使えない玄弥だが、可能性(異能)を信じ伝えたもの。
これとは対照的なのが、
◐『俺は動き出す 猪突猛進をこの胸に!!』<嘴平伊之助(はしびらいのすけ)>(産経新聞に掲載)
~と、突っ走る。「弱気なこと言ってんじゃねぇ!なれるかなれねぇかなんてくだらねぇこと言うんじゃねぇ!信じると言われたなら、それに応えること以外考えんじゃねぇ!」という。ある意味まっすぐな性格の持ち主です。
〇守ってあげれば、子どもは、強い子に育つ
~信頼できる味方がいることで、自信がもてる。
◐「誰が何と言おうと私は君を認める」<悲鳴嶼行冥>(読売新聞に掲載)
~子供を信用できなかった行冥が、厳しい修行に耐えるなどその行動を見て炭治郎のことを信用するシーン。怖く厳しい行冥にこんなことを言われるとうれしいでしょうね。
〇和気あいあいとした家庭で育てば、子どもは、この世はいいところだと思えるようになる
~ほめて励まし、認め合う温かい家庭があれば、失敗してもお互いに助け合え、立ち直れる。
◐「一人じゃ無理だったけど仲間が来てくれた」<栗花落カナヲ(つゆりかなお)>(読売新聞に掲載)
~姉さん(胡蝶しのぶ)に言われたとおりに仲間(伊之助)を信じて力を合わせることで鬼を倒すことができた。
◐「今度は必ず君に好きだと伝える」<伊黒小芭内(いぐろおばない)>(日本経済新聞に掲載)
~ラスボスの鬼(無惨)との闘いで心配する甘露寺蜜璃に対して言ったセリフですが、鬼のいない平和な世界で、もう一度人間に生まれ変われたら今度は必ず君に好きだと伝える。というもの…。切ない。
◐「もう二度と目の前で 家族や仲間を死なせない」<富岡義勇(とみおかぎゆう)>(毎日新聞に掲載)
~鬼と闘いながらも家族や親友のことを思う。
◐「『テメェは本当にどうしようもねぇ弟だぜぇ』<不死川実弥(しなずがわさねみ)>(産経新聞に掲載)
~弟(不死川玄弥)思いの兄です。
◐「兄ちゃんが俺を守ろうとしてくれたように 俺も兄ちゃんを守りたかった」<不死川玄弥(しなずがわげんや)>(産経新聞に掲載)
~短気ですが、兄(不死川実弥)思いの弟です。
◐「永遠というのは人の想いだ 人の想いこそが永遠であり不滅なんだよ」<お館様 産屋敷耀哉(うぶやしきかがや)>
~お館様(鬼殺隊の当主)が、ラスボスの鬼(無惨)との闘いの中で、最後に語った「不滅」に対する鬼と人間との違いの言葉です。家族こそが永遠の命の元なのです。
時代背景は古くとも、現世にしっかり響くものがありましたね!
ややこじつけのようにモノもありましたが、懸命に生きる(命がけの)鬼殺隊の言葉は子どもたちの心にも響くことでしようね。
最後に、『劇場版『鬼滅の刃』無限列車編』の主題歌となっている「炎」をうたっているLiSAさんの座右の銘に「今日もいい日だ」という言葉があります。これは売れずに苦労していた時に、母親がいつも言っていた言葉だそうで、「今日もいい日だ」というと良いことは絶対ある。とりあえず「今日もいい日だ」と言ってから寝るんやよ」と声を掛けられたという。<2021年1月15日放送のTBS系「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」より>
親の言葉は、子どもにとって宝物です。
私も子どもたちにも「今日もいい日」だといえるような毎日にしたいと思っています。
放課後等デイサービスおひさまぷらす
治部田