家の畑では日本在来種の阿蘇高菜を育てています。みつばちが受粉を助けてくれているようすです。
■これまでの農業のイメージはもう古いです。
あなたは農業と聞いてどんなイメージが浮かびますか?
「きつい・汚い・危険」といった3Kのイメージがあるかもしれませんね。
これまでの農業は農薬を使ったり、機械化が進んでいなかったり、負担が大きい仕事でした。
そして減反政策でお米を作ってはダメだと国が決めてしまい、お米を作りたくても作れない時代もありました。
そんな歴史があって、農業を志す人たちが減り、日本の農業は後継者不足になっています。また、農家さんの高齢化も進み、日本の農業は大変な時代を迎えてしまいました。
それを打開するために外国人技能実習生という制度を利用して、中国・フィリピン・ベトナム・カンボジアから日本の農業を学ぶという名目で外国人労働者を雇い入れるようになりました。
でも中国が経済的発展を遂げ、アジアの若者は日本に来るより中国で働くことを選ぶようになり、日本に来る実習生は、貧困層の人々だけに変わりました。
■農業は作物だけでなくエネルギーも作り、農村の風景を守ります。
一方、最近のアウトドアブームに代表されるように、仕事で疲れた心と身体を癒すために自然に親しむ人たちが都市部を中心に増えています。
登山などスポーツとして自然に入っていくだけでなく、ガーデニングや家庭菜園など植物に触れることで心身の回復を図る人たちも増えています。
高齢者向けのリハビリ農園が国の補助金の対象となり、日本初の園芸療法の学校も出来ました。
そんな時代の流れを受けて、今、農業の良さも見直され始めています。
農業は食べ物を作るだけでなく、美しい農村の景観を守り、再生可能エネルギーを作り出すことにも取り組み始めました。
賛否両論ありますが、遺伝子組み換え作物だけでなく、農作物は品種改良が続けられています。
農業機械もIT化が進んでおり、太陽光発電した電気でハウスの空調システムを動かし、温湿度センサーで作物に最適な環境を調整し、必要な養分をコンピュータで計算し、チューブで自動灌水したり、牛のお産の時期をセンサーで離れた場所から作業しているスタッフに通知したりするなど様々な技術が開発されています。
農村の風景を見て懐かしく感じる人が多いのは日本人のDNAに農耕の歴史が刻み込まれているのかもしれません。
水をたたえる田んぼは、天然のクーラーになり、洪水を防ぐための貯水池としても役立っています。
エネルギーに目をむけると、昔は、鬼滅の刃の炭治郎のように、炭焼きをして人々が使う燃料を作っていた事もありました。
現在では太陽光パネルの下で動物を飼い、日陰で作れる作物を栽培して、エネルギーも作りながら、食料を作るソーラーシェアリングも始まっています。
■地域課題を解決する農福連携
農業には新しい取り組みが導入され、農業と福祉が一緒になって地域課題を解決する「農福連携」が見直されるようになりました。
福祉分野に目をむけると、全国の福祉施設では受注できる仕事がなくて利用者の方々に十分な給料(工賃)を払うことが出来ないという課題があります。国の制度も令和3年度から変わり、利用者さんに支払っている工賃の額で報酬が決まるようになりました。
一方、農業分野では後継者不足と高齢化から農作業の担い手を探しています。
農地法も変わり、農業に真剣に取り組もうとしている社会福祉法人やNPO法人が農地を借りられるようにもなりました。
そんな追い風を受けて各地で農業に取り組む福祉事業所が増え、成功を収めています。
■ソーシャルファーム(社会的企業)に成長した事例
2020年のノウフクアワードでグランプリに輝いた鹿児島県の社会福祉法人白鳩会は1972年から障がい者の働く場所を作るために農業に取り組んできた農福連携のパイオニアです
。
今では45ヘクタールにもなる広大な農地を活かして、障がい者だけでなく引きこもりやニート、生活困窮者など生きづらさを抱えた人々も包摂した活動が評価されました。
知的・精神・発達障害に難病患者やシングルマザー、触法障がい者、支援学校の非行者、他施設の処遇困難者など一般就労が難しい方々が140名ほど働いています。
多品目の野菜栽培、牛・豚の飼育から解体・精肉・食肉加工、パンや惣菜の製造やレストランの運営まで、ほぼ全ての作業に障がい者が関わっています。
そんな取り組みが評価され、地域課題である「耕作放棄地」を使って欲しいという声が地元で増え、現在は15ヘクタールの耕作放棄地が農地に蘇りました。
GAPや有機JAS認証を取得し、安心安全な環境で作られた作物であるというお墨付きも受けました。
そんな素晴らしい環境で働く障がい者の工賃は全国平均15,000円を超え、平均21,000円です。多い人は95,000円を稼ぐ方もいらっしゃいます(平成30年度)。
白鳩会には別法人として農業生産法人もあり、そこに就職していく障がい者も増えています。また地域にジェラートショップやレストランなどアンテナショップが複数あり、地域の人たちと障がい者の交流の場にもなっています。
阿蘇の草原のススキを刈って京都のかや葺き職人さんに納めた時のようすです。
■ノーマライゼーションからソーシャルインクルージョンへ
農福連携は、高齢化や食料生産など地域課題を解決する方法として益々注目されています。これまでの「きつい・きたない・危険」のイメージとは異なるアプローチがあちこちで生まれています。
G-SHOCKで有名なカシオは、福祉施設と契約して田んぼを借り上げ、障がい者の人たちと一緒に米作りを行い、とれたお米を社員食堂で食べるという取り組みを始めました。
この長文を最後までを読んでくださったあなたにお願いがあります。
農福連携のことを心のどこかにとどめて、障がい者の就労や実習先として、リハビリの一つとして農業があることを思い出して下さい。
私自身も祖父母が農家で、農業なんて自分はやらないと思っていましたが、実際にやってみると、トラクターで畑を耕すのも面白く、障害のある人たちと一緒が刈った阿蘇のススキが屋根材として京都の古民家のかや葺き材に使われるなど日本文化を支えることにもつながり、とても魅力ある仕事だと思えるようになりました。
日光を浴びて身体を動かすことで、ご飯がおいしく感じられるようになり、鬱で引きこもっていた時に自分自身が回復していった体験もあります。
人と地域を元気にするソーシャル・グッド(Social Good)な取り組みである農福連携をより多くの人たちに知っていただけたらと思い、この記事を書かせていただきました。
相談支援センターいちばん星 井芹